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幻視─フレンチトースト [レビー小体型認知症]

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第187回『NHK番組「認知症と向き合う」を観て(その2) 62歳のある認知症』(2011年9月13日公開)
 9月7日に紹介されたのは62歳の金子智洋さんと、62歳の加藤千賀子さんです。たまたまなのかどうか分かりませんが、今回の「シリーズ認知症と向き合う」で登場した方は皆さん62歳でしたね。
 金子智洋さんは、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)と診断されています。シリーズ第20回『幻視が特徴の認知症とは』にて詳しくご紹介した疾患ですね。
 幻視のある患者さんが幻視に関する自分の考えを述べているシーンが非常に印象的です。金子さんは、「おふくろと節子がつるんで、『それは模様なんだから』というふうに援助してくれようとしているのは分かるんですけども、『こうだ!』ということを押し付けちゃう部分が・・(僕の方がね)。悪いなとは思うんだけれども、でもやっぱりそうはいうものの、このお皿のなかの虫は絶対許さないなと・・」と心境を語ります。
 妻の節子さんは、智洋さんがパンくずを虫と見間違えないように「フレンチトースト」にしました。フレンチトーストが功を奏して虫は随分と出にくくなったようです。
 
 加藤千賀子さんは、前頭側頭型認知症(FTD)と診断されています。シリーズ第22回『ピック病をご存じですか?』にて詳しくご紹介しておりますね。
 当初、軽い記憶障害と「盗聴されている」という妄想がみられ物忘れ外来を受診したところ、「神経精神専門医に行ったほうが良い」と言われます。
 そこで「統合失調症」と診断され、精神病院の閉鎖病棟に入院となり大量の薬が処方されます。
 統合失調症に関しては、シリーズ第173回『妄想性障害(その1)』にて少し触れております。
 夫である勝雄さんが面会に行くと、千賀子さんから「父さん、私がここにいたら病気になっちゃうよ」と言われてしまいます。詳しい経緯は放送では紹介されておりませんが、その後医療機関を転々とし、5人目の医師によってようやくFTDという診断にたどり着きます。
 その後、千賀子さんはデイケアに通うようになりました。当初は集団生活に馴染めずに他の利用者とのトラブルが絶えない状況だったそうです。しかし、施設の横溝和子看護師長が千賀子さんの「文字の美しさ」に気づきます。
 千賀子さんがかつて書道の先生をしていたことを知り、デイケアの誕生会で使う看板を書いてもらうことになります。
 できることが増えて行くにつれて、千賀子さんの症状は次第に落ちついてきます。国立長寿医療研究センター内科総合診療部の遠藤英俊医師は、書道により本人の自信が回復したことが症状の改善に繋がったと分析します。


盗聴されている
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/09/13 11:19
 「盗聴されている」という訴えがあった場合には、私は先ずはシリーズ173回『妄想性障害(その1)-病的な妄想いろいろ』にてご紹介した「妄想性障害」を診断する際の念頭におくと思います。
 また、年齢が高齢でしたらレビー小体型認知症(DLB)も鑑別診断の中には入れる必要があると思います。

 「軽い記憶障害 , 盗聴されている」→「前頭側頭型認知症(FTD)」は結びつきにくいですね。誤診され5人目の医師でようやく診断がついたのも頷けます。
 しかしながら誤診は誤診。真摯に結果を受けとめる必要があるのでしょうね。

 2010年6月に開催された第25回日本老年精神医学会の抄録に記載されていますように、新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健学専攻言語聴覚学分野の今村徹教授が、「前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia;FTD)では妄想の頻度は低く、幻覚は極めて稀であるとされている。今回我々は被害妄想と幻聴を呈したFTD の一例を報告する。」(http://184.73.219.23/rounen-s/J-senyou/D_gakkai_koenkai/25th/koutou2-1.htm)という症例を報告しています。
 上記の報告によると、73歳女性において実際に認められた症状は、3軒隣の住人に盗聴器を仕掛けられているという被害妄想と、「夜間その家からカラオケの声が聞こえてくる」、「自分の話したことと同じことが聞こえる」という幻聴が初発症状に含まれておりました(今村 徹 他:幻覚、妄想を初発症状に含み前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia;FTD)に一致する臨床症候群を呈した一例. 老年精神医学 Vol.22 595-605 2011)。


本人には実体験
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/09/13 12:42
 松本診療所ものわすれクリニックの松本一生院長(大阪人間科学大学教授)は、「妄想」に関して以下のようなコメントを述べられています。
 「医学用語として使われる妄想についても認知症の本人にしてみれば、今まさにそのようなことを実体験として感じているのである。たとえその体験が真実ではなく、その人の病的体験であろうとも、本人からすると『今、まさにそのように体験している』と感じているのである。それゆえ周囲の者がその状況だけを見て、『この人は妄想を持っている』と一言で片づけるのではなく、病気のためにその人が体験している世界がどのようなものなのかを考え、そのような世界にいる人ができる限り恐怖や恐れなく過ごせる状況を作ろうと心掛けることが大切である。」(松本一生:認知症の人と家族を支えるということ. 現代のエスプリ通巻507号 ぎょうせい発行, 東京, 2009, pp8-9)


実体験(架空)を尊重する
投稿者:ムラタケ 投稿日時:11/09/13 19:41
「 本人には実体験」という説明を聞いて、そういうことなのだと、納得しました。おかしいとか、間違っていると言われた本人が、怒ったり不信を募らせるのは当然のこと。今は亡き認知症の義父に、厳しい批判の言葉を浴びせたこと、反省しています。ごめんなさい。

ムラタケさんへ
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/09/13 20:38
 あまり思い出したくない過去を振り返らせてしまったみたいですね。
 認知症ケアへの理解が深まってきたのは、まだここ10年程度のことです。ずっと手探りの状況でした。
 その時代に、「怒った」ことは致し方ないことです。
 私などは、実の父を「叱った」のはまだ昨年のことです。


今日の再放送
投稿者:まるタン 投稿日時:11/09/13 20:00
 足立昭一さんは何度か観ております。
 今日は今まで観たよりも表情が豊かでした。周辺環境がとても良いのでしょう。関わりの工夫と努力のたまものですね。

 明日は義母が入院している病院に嫁二人で行きます。
 どのように話すか、義母の話をどのように聴くか、複数の目で体感してきます。


Re:今日の再放送
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/09/13 20:53
まるタンさんへ

> 今日は今まで観たよりも表情が豊かでした。

 そうですね。
 野菜を売るときの足立昭一さん、本当に活き活きしていましたね。

> 明日は義母が入院している病院に嫁二人で行きます。

 明日の原稿に登場すると思いますが、「今やってみたいこと」を率直にお義母さんに聞いてみることは良いかもしれませんよ。
 本人の気持ちを引き出すには良い質問だと感じています。詳細は、木曜の再放送をお楽しみに。

超記憶症候群 サヴァン [脳科学]

 ソニー・コンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーの茂木健一郎博士が書かれた著書には、「超記憶症候群」のリック・バロンさんの詳細が紹介されています(奇跡の脳の物語-キング・オブ・サヴァンと驚異の復活脳. 廣済堂新書, 東京, 2011, pp99-117)。

 リック・バロンさんは、世界でたった四人しかいないとされる超記憶症候群の一人だそうです。
 著書によれば、超記憶症候群とは、「通常、時間ととともに薄れてゆく幼い頃に体験した出来事などを、細部に至るまですべて正確に覚えている能力」と言われています。
 リックは、「十三歳から現在にいたるまで、およそ四十年以上にわたって、自分に起きた出来事を正確に記憶している」そうです。


 皆さん、リックの家にないものって分かりますか?

 「リックの家には、カレンダーも、電話帳も本もメモ用紙もない」そうです。一度見たものはすべて覚えてしまうため、そのような類のものは必要ないようです。

 メモ魔の私にとっては、羨ましい限りの才能です。毎晩意識が遠のくまで深酒をして、おそらく海馬が萎縮して記憶力が低下している私にとっては・・。


糖尿病性認知症 [認知症]

糖尿病と認知症
https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/595552310614452 
 生活習慣病の中でも,糖尿病とADとの関連がもっとも注目されており,基礎的ならびに臨床的な研究成果が蓄積されつつある。一般に,糖尿病は,動脈硬化や脳梗塞などの血管病変に加えて,糖毒性や酸化ストレス,AGE(advanced glycation end-product)などによる代謝性病変,さらに高インスリン血症,インスリン抵抗性,インスリンシグナル伝達の障害がADの病理過程を促進するメカニズムとして推定されている。
 高齢者では,これらの循環障害,代謝異常,変性過程が混在し,いわゆる“合わせ技”として認知症の発症を早めているものと推察される。その中でも,糖代謝異常が認知症の発症に深く関与している病型があり,われわれはこれを“糖尿病性認知症”と呼んでいる。
 本症は有意な血管性病変を認めることは少なく,臨床的にはADと診断されていることが多いが,ADの特徴的な脳画像所見,すなわち海馬の萎縮や頭頂側頭葉の血流低下を呈することも少ない。臨床的にはやや高齢,糖尿病のコントロールが不良,近時記憶障害よりも注意・集中力の障害が目立ち,進行はやや緩やか,という特徴をもつ(図)。また,アミロイドPETは陰性のことが多く,タウPETでは軽度の集積がみられることから,糖毒性と関連した“タウオパチー+非特異的神経細胞障害”が背景病理として推察され,われわれは臨床診断のためのガイドラインを提唱している(表)。
 2型糖尿病を伴う認知症のうち,約10%程度が本症に相当するものと考えられる。
 …(中略)…

健康寿命の延伸に向けて
 生活習慣病関連認知症のうち究極の臨床病型が糖尿病性認知症であり,糖尿病の適切な治療や管理が,認知症の改善や進行抑制,さらには発症予防にもつながる可能性が高い。最近,英国を含む海外からの報告によると,この20年間で認知症患者は約24%減少しているという。この背景には教育歴の向上や血管性病変の減少,さらには血管性危険因子や生活習慣の改善が寄与しているらしい。したがって,糖尿病を含む生活習慣病の観点から認知症の病態解明や治療法の開発,さらには予防まで可能となり,生活習慣病対策がより現実的なアプローチとして期待される。デイサービスの有効活用が認知症の進行抑制にもつながることから,生活習慣からの対応は健康寿命の延伸につながるものと期待される。
 【羽生春夫:認知症. 成人病と生活習慣病 Vol.46 521-525 2016】

診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すこと [医療情報公開]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第361回『「正確な医療情報を知りたい」に共鳴して―元日に寄せて』(2014年1月1日公開)
 

 皆様、新年明けましておめでとうございます。
 本日は、私がずっと実践してきました医療情報の普及に対する取り組みについてご紹介したいと思います。

 2013年1月29日に東京都内で「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」(主催:東京都医学総合研究所)が開催されました。
 シンポジウムにおいては、認知症の人が、その人らしく生きていけるよう地域で支えていくためには何が必要なのか、6カ国(イギリス、フランス、オーストラリア、デンマーク、オランダ、日本)の政策担当者や非営利団体の幹部、経済学者らが参加して活発な議論が交わされました。
 そのシンポジウムにおいては、「本人だけでなく、介護者のケアも必要だ」との意見も相次ぎ、オーストラリアの保健高齢化省の担当者は、「認知症の人が自宅で生活を続けるには、本人だけでなく介護者である家族に対し、カウンセリングや休養などのケアが欠かせない」と話しました。

 フランスにおける「患者と介護者のQOLを高めるための施策」についてご紹介しましょう(濵田拓男:リポート─海外でも広がる地域で支える認知症施策. COMMUNITY CARE Vol.15 56-59 2013)。
1. 「デイケア」「一時入所施設」を設置し介護者にレスパイトケアを提供する
2. 「研修」で介護者にスキルや情報の提供を行う
3. 総合病院内のリハビリ部門に設置された「認知行動ユニット」が危機的な状況にある人に介入し自宅へ帰る支援を行う
4. 介護施設内に、行動障害のある人のための専用ユニット「UHR」を設置し、BPSD(認知症の行動・心理症状)に対応する
5. 医師・看護師・ケアワーカーが認知症に対処するために、ケア専門職向けのスキル・研修を開発しトレーニングを受ける
6. 「電話相談窓口」を設置する

 私自身もカウンセリングとまではいきませんが、私が認知症診療に携わるようになってからずっと続けてきた一つの取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布したものであり、それから16年に渡ってこの取り組みを継続しており、2014年1月号にて通巻193号となっております。継続は力なり!と信じて、粘り強く続けております。
 アピタルの「ひょっとして認知症?」も Part1の最終回が第530回『100歳の美しい脳(その11)─たくさん本を読んで、手紙も書いて』でしたので、Part2が第470回を迎えますと延べ1000回となります。今年の4月下旬辺りでしょうかね。

 認知症に関する知識が何もない暗闇の中では、「情報」という一筋の光はひときわ大きな力を発揮します。私自身、患者さん・ご家族の「正確な医療情報を知りたい」という気持ちはごくごく普通に共感できますので、医療情報公開というライフワークに精力的に取り組んできました。
 医療情報普及のためには、インターネットは極めて大きな力を発揮します。私が自身のHPを開設したのは1996年6月23日のことです。1996年8月23日付朝日新聞・家庭面においては、「インターネットで気軽に痴ほう症診断」というタイトルで私のHPが写真入りで紹介されております。私の取り組みが全国紙朝刊で紹介されましたのはこの時が初めてです。
 インターネットを活用して医療について分かりやすく情報提供していくことは非常に大切なことだと私は考えております。そして、診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すことです。
 私が皆さんにお勧めすることは、診察室で「メモを取る」ことです。メモを自宅で読み返して疑問点が出てきたら、インターネットを活用して調べます。そして次回診察の折に医師に質問して、自分自身の理解が間違っていないかどうかを確認し、病気に関する理解を深めていくのです。

 2010年9月28日より「ひょっとして認知症?」の連載を続けてきましたが今秋辺りでひとまず卒業かなとは思っております。卒業の日まで、皆さん今しばらくおつき合いのほどよろしくお願いいたします。

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